「明烏」小松左京

明烏 落語小説傑作集 (集英社文庫)

明烏 落語小説傑作集 (集英社文庫)

 小松左京の小説は読んだことがない。従って、著者が「日本沈没」などを書いた著名なSF作家と言う認識しか持っていなかった。東京に行った際、時間つぶしになる本はないかと思い、浜松町駅文教堂書店で購入した。
 標題の「明烏」は落語では有名な演題なので、それに引かれたのである。本のデータベースには以下のような記載があった。
 大学生になった甥の堅さを心配した叔父が、昔なじみの女将に…。初心な若旦那が騙されて吉原へという落語を現代の艶笑譚に昇華した『明烏』。「天神山」と「立ち切れ」を芸能の本質に迫る人情譚に仕立てた『天神山縁糸苧環』。他、「三十石夢の通路」「反魂香」など有名落語を、奥深い芸道と色恋の艶を加えて、粋で鮮やかな世界に完成させた珠玉の作品集。全四編。

 何といっても感心したのは、『天神山縁糸苧環』(てんじんやまえにしのおだまき)。読んでいくと桂米朝らしき人物が登場している。またその弟子の桂枝雀も、嬉しかったですね。関西育ちの著者が、そこの土地柄で得られたものを、蘊蓄と言うのではなく、自然に表現して全く嫌味がない。桂米朝は1925年11月6日生まれで87歳 。つい先日肺炎を起こして入院中という。元気になってまたラジオでその声を聞きたい。今ではCDで聞いているが米朝・枝雀の落語は味がありますね。
 巻末には米朝との対談もあって、そこで米朝が『天神山縁糸苧環』について、「すごい題がついていますが、あれ読ましてもろて、ようこういう小説にまとめられたなあと感心しましたわ。SFといえばSFやけど、SFでないかもしれまへんな、あれは。」と言うと、小松左京は「僕は上方にガッチリ残っとった我々の江戸期、あるいは上方でいえば織豊期の大先輩が作り上げてきた口碑文芸の構造とか、演出を一回写すつもりでやってみようと思うてた。」と答えている。
 読書範囲が狭い私にとっては、思わぬ拾い物の本であった。




我が家の絵馬 徳島・大龍寺



どどいつ入門(中道風迅洞 1986年 徳間書店)
○寝てもさめても 忘れぬ君を 焦れ死なぬは 異なものじゃ
○梅花は雨に 柳絮は風に 世はただ嘘に もまるる
卯の花かさね な召さいそよ 月にかがやき 顕はるる