絵解き江戸庶民のことわざ

絵解き 江戸庶民のことわざ

絵解き 江戸庶民のことわざ

 翻訳者(北村孝一)の解説によると、著者のステナケルはフランス人で長崎や横浜で領事を務めていた。もう一人の著者の上田得之助も横浜のフランス領事館に勤務していた。この本が刊行されたのは1885年(明治18年)。絵は河鍋曉斎(1981〜89)が描いている。曉斎の「狂斎百図」の約4分の3の図版が収録されている。百図は錦絵なのでカラーだが、こちらはモノクロになっている。
 この本は、明治時代の横浜などに住んでいたフランス人を対象にして書かれたものなので、当時の日本人にとっては自明な言葉・ことわざでも、フランス人にわかりやすいように丁寧に解説している。従って、今日の我々にとっても比較的理解されやすくなっている。そうとは言え、私にとっては解らないことわざばかりであった。
 そこで「成語林」で調べてみた。
成語林―故事ことわざ慣用句

成語林―故事ことわざ慣用句

 8,000円もするこの本には、項目数で16,500の格言・名言・四字熟語・慣用句が収録されている。「絵解き江戸庶民のことわざ」に収録されている100のことわざのうち、成語林に収録されていなかったことわざは12あった。それだけ使われなくなったということか。因にそのことわざを挙げてみる。「蒟蒻の化物」「猫の尻に才槌」「地蔵の顔も三度撫でれば腹を立つ」「あんころ餅でお尻を叩く」「老れの学問」「早桶に片足」「盲の鑑定」「亭主の顔へ泥を塗る」「きんたまも吊り方」「おたふくに白酒」「人を祈らば穴二つ」「猪食った報い」 わからん。
 絵までは紹介できないが、短いのを一つ。「蒟蒻の化物」フランス人向けの著者の解説は以下の通り。「無気力の怠け者で、何をすべきかわかったためしのないひとについていう。蒟蒻とは非常にぐにゃぐにゃした一種のパテで、ゼラチンでできているような見かけと固さをしている。お化けも煙のように実体がなく、柔らかくて何の抵抗も示さないから、蒟蒻のお化けとくれば、これ以上ないほどぐにゃぐにゃしたものになるわけだ。ある商人がすべって、蒟蒻の入った桶(バケツ)を引っくり返したところ、蒟蒻はまたたく間にお化けになった。これを見てあわてた侍が、このぶよぶよした化け物を切って捨てようと刀に手をかけている。」
 暁斎の巧みな絵によって、ことわざの意味が理解されるのである。