澤地久枝

 澤地久枝は1930年生まれ。苦労して大学卒業後、中央公論社に入社。後に、10年ほど五味川純平の手伝いをしている。彼の小説では三一新書「人間の条件」を読んだ事がある。40年以上も前だ。高校の図書室で借りたのか、父親が買ったのを読んだのか記憶は定かではない。自らの戦争体験を下に、軍隊の非人間性を表したものである。後に仲代達矢主演で映画化された。
 澤地は戦記物のノンフィクション作家としてよく知られているが、「九条の会」の呼びかけ人でもある。憲法九条を守る取組みは全国に広がっている。今では、全国に7,000を越える会があって、さまざまな活動で九条の必要性を広めている。私が住む阿波市でも「あわ九条の会」が出来ていて、ささやかではあるが毎月市内のスーパー前で、ノボリバタをもったりしてアピール活動を行っている。
 九条の会徳島では11月3日に澤地さんを呼んで講演会を行う。そんなわけで、彼女の本を読むことにした。

琉球布紀行 (新潮文庫)

琉球布紀行 (新潮文庫)

 文章が良い。沖縄の織物作者・織物・季候・風土に対する、温かい理解と共感がにじみ出ている文章である。2年間沖縄に住んで、各地の工房を訪ね歩いている。写真も良いですね。織物の素晴らしさが理解される。取り上げられた織物は、首里の紅型・読谷山花織・奄美大島紬・久米島織・宮古上布・喜如嘉の芭蕉布八重山上布・与那国織・琉球絣・首里織など。ほとんどの織物が、沖縄戦と高度経済成長のなかで滅亡の危機に瀕した。その、再生の記録でもある。戦前はどこの家でも機織機があった。琉球弧の島々を巡って丹念に取材を続けて書かれている。何よりも彼女の織物好きが理解される。
 こう書かれている。「沖縄戦の日々は、すでに遠い過去になった。しかし訪ねてゆくさきざきで、ドキッとする生々しさで戦争体験に出会う。老人だけではない。胎児や嬰児として沖縄戦を体験した人たちの切実な話を聞くことになる。それが目的で歩いているわけではないのに、まるで予期して選んで訪ねたような不意打ちに会う。」太平洋戦争では、沖縄は唯一の地上戦の場となった。何十万人という住民も犠牲になった。集団自決が軍隊によって強制されたが、その「強制」を否定する人々がいる。歴史の改ざんは後世に過ちを残すものである。
 また、大城志津子の文を引用している。「私達の先祖がつくりあげた過去の文化遺産は、第二次世界大戦によって、全て消滅してしまったが、その廃墟のなかから、立ち上がって、ようやくここまで復活させたのは、やはり先達の工芸文化を創作した力というものが背景となり、影響を与えていることを忘れてはならない。」
 文庫版のあとがきで著者は「琉球の染めと織。戦火だけではなく、一度は消滅した各地に固有の布を復活させ、伝統を守りつづける人と親しくなれた。そして、この世界には、危ういかなと思わされる困難な状況がつづいていた。」
人間の條件〈上〉 (岩波現代文庫)

人間の條件〈上〉 (岩波現代文庫)

(上・中・下巻)