差別語とはなにか

 昨日は、「守大助さんを支援する徳島の会」の総会が、2月6日に開かれるので、支援する会の会長・事務局長と一緒に、総会の案内と参加要請を各団体にお願いして回った。
 第5回のこの総会では、「徳島ラジオ商事件」の弁護団副団長を務めた林弁護士が記念講演を行う。事件の犯人とされた富士茂子さんは、何回も再審請求を行い、彼女の死後冤罪が晴らされた。その事件に取り組んだ教訓から学び、守さんの取り組みに生かそうという趣旨である。
 

差別語とはなにか (河出文庫 し 13-5)

差別語とはなにか (河出文庫 し 13-5)

 本書の著者の著作では「乞胸」(ごうむね)を読んだことがある。「弾左衛門とその時代」は積読状態である。
 本書は、1989年9月から1999年6月にかけて発表された文章が入っている。その上に、文庫版を出版するに当たり、新たに「はじめに」と「差別語の原理」が書き下ろされている。
 これ等の文章は、主に作家の筒井康隆の「断筆宣言」についての論評である。「てんかん」の記述についての不適切な表現(指摘されたのは当時筒井が書いた28年前の小説についてだった。)
 著者は、マスメディアが用語規制するのは、「彼ら放送局や新聞社内の意思ではなく、視聴者や購読者がそれをのぞんでいるからなのである。つまり、市民社会の規範が、用語規制というかたちで反映しているのである。差別語だけの規制だけでいうなら、そのような規範が社会に作られたのは、各種の被差別者のたえまない努力や要求によってなのだ。」と指摘している。
 また、著者は自分の差別語に対する態度として、「差別語によって指し示された当事者の意見に従う。」「当事者ではないところで、勝手に、ある語を差別語かどうかをきめてはならないことである。そういう権限はだれにも与えられない。」としている。
 差別語の発見については、「長いことだれも問題にしなかった表現に差別が発見されたほうに向けよう。差別の発見は、なにも水俣の考証館に限ったことではなく、性差別から人種差別、老人差別から身障者差別まで、そのあらゆる段階で、あるときまでは差別ではなかったものが、ある日から、差別として認識されはじめる。これを『差別の発見』ととりあえず呼んだ。 中略 つまり差別は作りだされるのだ。ある人が『おかしいのでは』と指摘し(言挙げし)、その意見に賛同する人が見つかれば、それは差別になる。」
 さらに、「差別の発見は、近代の重要な達成のひとつであった。」としている。かつては差別と思われなかったものが、近代的自我の成立によって差別として認識されてきた。
 1990年代の差別語に対する論議が、差別に対する認識を深めたことは明らかだろう。前進している面もあるが、未だに解消されていない面もある。
 先日、ある会議に出たときの議論だが、何か運動を進めるには「きちがい」が必要だという発言があった。もちろん、取り組みには一所懸命に先頭になって取り組む人がいてこそ、その運動が進むのだけれども、「きちがい」という表現は不適切ではないかと言ったのだが、納得されなかった。
 そこで、「きちがい」という言葉を辞典で調べてみた。辞典が書かれた時期によって、その説明内容は当然違う。
 小学生向けの辞典には「きちがい」という言葉は掲載されていなかった。そのうちに「死語」になるのだろうか。
 広辞苑第6版
  ①精神状態が正常でないこと。狂気、乱心、また、その人、狂人。
  ②ある物事に熱中して心をうばわれること。また、その人。
 広辞苑第3版
   第6版とほとんど同じであった。
 そこで、私が高校生の時に現代国語を習った北原保雄(元筑波大学学長)の明鏡国語辞典(大修館書店)を見てみた。
  ①言動が正常でないこと。また、その人。人をののしったり、不当におとしめたりする。差別的言語。
  ②ある一つのことにひどく夢中になること、また、その人。マニア。不当な差別を連想させるので適切とは言えない表現である。

 「きちがい」という言葉だけに限ってみると、明鏡国語辞典のほうが、「差別語とはなにか」の著者の塩見鮮一郎の考えを反映した、解説になっているのではないか。「きちがい」という言葉については、辞書によっては明鏡国語辞典のように、差別語だと明示しているものもあるが、そうでないのもあり、今後明鏡のように変わってくるのではないだろうか。
 そういえば、NHKの番組に「熱中人」というものがあるが、これは辞書の説明の②の言い換えなのだろう。

 ついでに、もう少し古い辞典を調べてみた。
 新版広辞林(1951年5月 新版第10版 三省堂
 ①気が狂うこと。精神が正常でないこと。狂気。
 ②気が狂っている人。狂人。
 ③ある物事に熱中しすぎて心をうばわれること。また、その人。
 言海(2004年第1冊 ちくま文庫 1889年明治22年初版 1931年昭和6年 628版 の復刻版
 きちがひ 病ノ名、精神ノ狂ヒテ、人事ヲ辨ヘズナル。モノグルヒ。乱心。狂気。瘋癩。又、ソノ病ノ人。狂人。

 私も含め、何気なく使っている言葉に差別語が含まれていることがある。当たり前のことだが、それに対しては道理に基づいた指摘、話合いが必要と思う。

乞胸 江戸の辻芸人

乞胸 江戸の辻芸人