身心快楽(しんじんけらく)

 先週火曜日(6日)に頭の手術をした。脳ではない。これはもうどうしようもないのだから。後頭部に脂肪の塊が数年前からできていたのだが、大きくなったのでとってもらうことにしたのだ。当初30分ぐらいと言われたが、1時間半も手術台の上に乗ることになった。うつ伏せになって同じ姿勢でいたので肩が凝ってしまった。バイポーラという電気メスで脂肪の塊を剥離していくのだが、耳の後ろでチリチリと音がするのは気色が悪いものだ。手術後に見せてもらった脂肪の塊は、人差し指の第二関節まで位の大きさがあり、プヨプヨしていた。上手に剥離するものである。近いうちに抜糸してくれるだろう。

身心快楽 (講談社文芸文庫)

身心快楽 (講談社文芸文庫)

 武田泰淳の随筆集である。1977年に同じ題名で玉井五一武田泰淳の随筆を編纂して、自伝を作っている。それも踏まえて、「武田泰淳伝」を書いた川西正明が再編集して、武田泰淳の自伝を作った。
 川西の解説による(妻の武田百合子の説明を引用)と、「心身快楽」とは、中国善導大師の発願文「六時礼賛日没の偈」(ろくじらいさんにちもつのげ)のなかに「心身快楽にして、禅定に入るが如く、聖衆現前したまい、仏の本願に乗じて阿弥陀仏国に上品往生せしめたまえ」からとったという。
 武田泰淳の随筆で彼が語った歩みをつずっている。快楽とは「『快楽』の頃」という随筆の中で武田泰淳は「ケラクというのは仏教用語で、快楽という字をあてるんですが、人が普通に考える快楽という意味とはちがう。このケラクとういのは、むしろ救いの快感、修行することにおける快楽といいますか、いわば普通の快楽を捨てることによって得られる快感といった意味なのです。」と書いている。
 武田泰淳は「ケラク」と「快楽」のハザマを行き来して、中国という彼にとっては大きな存在と相対峙して生きてきたのではないだろうか。そんなふうに思う。
 この本は、武田泰淳が生きている間に書いたいくつも随筆をまとめたであるので、ほとんどの文章は、今までに「黄河海に入って流る」「新編人間・文学・歴史」「冒険と計算」「わが中国抄」などで読んできたものであったが、彼の生涯をたどる上で、まとまったものである。