毎日新聞記事

 B型肝炎訴訟に関連して、毎日新聞の徳島版が「徳島肝炎の会」の紹介をしていたので、転記する。
毎日新聞記事(徳島地方版)など

国の姿勢に不信感 肝炎の会30年/上 徳島・患者たちの足音
2010年10月26日 提供:毎日新聞社
 ◇実名公表し原告団
 「30年間で多くの会員が亡くなった。患者の怒りを国に分からせないと」。集団予防接種による感染を巡り国の責任を問うB型肝炎訴訟で、県内患者団体「徳島肝炎の会」会長の有川哲雄さん(64)=阿波市=が29日、大阪地裁に提訴し、原告団に加わる。80年の会設立時からのメンバーで、何人もの会員の死に接してきただけに、「患者と家族の無念を晴らす」と決意する。
 東京で生まれ、大学卒業後の68年、医療関係の仕事に就くため県内に移り住んだ。70年代後半、血液検査でB型肝炎ウイルスの持続感染者(キャリアー)と判明。母親や兄弟は感染しておらず、幼少期の集団予防接種で注射器が使い回されたことが、ほぼ原因だ。
 幸いにも肝炎は発症しておらず、普通に生活ができている。しかし、発症の不安にさいなまれ続け、定期的な検診は欠かさない。息子や娘が幼かったころには、歯ブラシやカミソリなど自分の血液が付く可能性がある物を触らせないなど、気も配った。
 キャリアーを含む患者同士の情報交換などを目的に80年6月、地元医師らの後押しを得て会を設立した。最初の名称は「徳島B型肝炎患者友の会」。C型ウイルスが特定される以前で、A型でもB型でもないという意味の「非A非B型」と呼ばれた時代だった。病名での区別をなくそうと翌81年、現在の名称に改めた。
 発足時の会員8人はいずれも、働き盛りの30〜40代。東京から専門医を招き、数百人規模の講演会を開くなど精力的に活動した。しかし、初代会長は設立から10年とたたず、40代半ばで亡くなった。会員の通夜や葬儀で、遺児となった小中学生に出会うことも珍しくなかった。焼香で訪れた先で仏壇脇に置かれたランドセルが今も目に焼き付いている。
 訴訟の和解協議で、国はキャリアーを和解金の対象から除外している。原告団に加わる決意をしたのは「今、声を上げなければ」と感じたからだ。大阪地裁に提訴した約90人の中で実名を公表している原告は4人だけだが、自分の名を出すことにためらいはない。
 今月7日、桜井充財務相は「原告団が示す数字だと、予算を削減するか、増税もしなければいけなくなる」と発言。増税をちらつかせる国の姿勢に不信感が募る。「感染を広げた当事者の意識ではない。今まで患者や家族が精神的、肉体的にどれだけの負担をしてきたことか」。穏やかな口調が、このときだけは厳しくなった。
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 肝炎を巡っては、B型の訴訟の和解協議が札幌、福岡両地裁で続く一方、薬害肝炎救済法(08年施行)、肝炎対策基本法(10年施行)と立法措置も相次いだ。設立から30年を迎えた「徳島肝炎の会」の歩みを通じ、県内の現状を見る。【井上卓也

患者続出に追われ 肝炎の会30年/中 徳島・患者たちの足音
2010年10月27日 提供:毎日新聞社患者たちの足音:肝炎の会30年/中 患者続出に追われ /徳島 
◇診療40年、昼夜問わず処置
 県内の肝炎医療に長く携わり、患者団体「徳島肝炎の会」を発足当初から見守ってきた医師がいる。健生石井クリニック(石井町)所長の樋端(といばな)規邦(のりくに)さん(67)だ。「数値が安定し、もう大丈夫と思ったB型肝炎患者に、突然がんが見つかる。助けられなかった人はたくさんいますよ」と、ゆっくりとした口調で約40年間にわたる診療の記憶をたどった。
 県外で内科医になり、70年に故郷の徳島に戻った。健生内町診療所(徳島市)で勤務しながら気付いたのは、外来に訪れるウイルス性肝炎患者の異常な多さだった。徳島大学病院にもまだ専門外来がなかった時代。病状も初期から末期までさまざまで、個別にケアするのは難しかった。
 「このままではいけない」と72年、同診療所の患者らに呼びかけて「肝談会」を発足させ、病気についての学習会などを開いた。この活動が患者の自発的な動きに成長し、「徳島肝炎の会」の設立につながった。
 慢性肝炎、肝硬変、肝がんと、症状が段階的に進行するC型肝炎に対して、慢性初期であってもがんが見つかるのがB型の特徴という。現在ほど治療法が進んでおらず、重症者は次々に死亡した。70年代、肝炎に最も多かったのは吐血を繰り返すことによる出血死。「肝臓が悪くなると食道に静脈瘤(りゅう)ができ、それが破裂する。腹水がたまり、うなりながら暮らす患者もいた」という。患者の処置は昼夜を問わずあり、帰宅もろくにできない生活が10年ほど続いた。
 血液で感染するのが肝炎。患者の血を浴び、自身も急性肝炎を発症した経験がある。幸い治療が奏功し、成人後の感染だったので持続感染もなかった。この経験で感染による全国初の労災認定も受けたという。当時は医療従事者への感染も多く、県外の大学病院では「医局の医師・看護師がバタバタと倒れた」との話も聞いた。
 こうした状況に、誤解から生まれる偏見も根強かった。医療機関に対してさえも「体内に血液が入らないようにすれば大丈夫」と説明して回らなければならなかった。産科では隔離されたケースもあり、「妊婦は特に気の毒だった」という。
 訴訟で問題となった集団予防接種による感染については、06年の最高裁判決で、法的証明の判断基準が示されたが、樋端さんは「疫学的に証明するのは難しい」と考えていた。感染者が出た地域を1人残らず調べ、他の感染の可能性をすべて排除するのは無謀に思えたからだ。
 しかし、状況証拠の存在は以前から確信していたといい、こんな昔話を打ち明けてくれた。「県内の小学校で、同級生の感染が連続した。ごく小さなグループで、当時は発表することもできなかったが……。予防接種による感染を強く示唆していた」

都道府県で対策に差 肝炎の会30年/下 徳島・患者たちの足音
2010年10月28日 提供:毎日新聞社 ◇量りかねる行政の“本気度”
 「肝炎対策基本法(今年1月施行)ができても、実情はほとんど変わっていない」。患者団体「徳島肝炎の会」で長く事務局長を務める近藤宏さん(55)はため息をつく。行政による医療費の一部助成が08年度から始まり、同法の施行で肝炎対策が一層進むと患者らも期待していた。しかし、県内では、09年度に打ち切られた医療機関での無料ウイルス検査は今年度も実施されないまま。医療機関で無料受診できないのは四国では徳島県だけで、近藤さんは「都道府県で対策にばらつきがある」と指摘する。
 県の推計では、県内の肝炎患者は約5000人。自覚症状に乏しく、ウイルス感染に気付いていない人も多く、正確な数字は把握できない。県は08年度、未受診解消と利便性向上を掲げ、無料ウイルス検査を県内77医療機関に委託した。同年度の受診数はB型876件(うち医療機関分614件)、C型956件(同692件)だった。しかし、翌09年度には実施機関が県内6保健所だけに減り、受診数はB型257件、C型267件に落ち込んだ。四国他県では今年度も委託が実施されているが、県は「予算確保が難しかった」と釈明する。
 また、医療費助成制度の利用も伸び悩む。08年度に始まったインターフェロン(IFN)治療の医療費助成では、県内で当初、1000件の申請を想定していたが、実際は08、09両年度とも400件に届かなかった。近藤さんは「年金生活の患者も多く、『お金がなくて治療できない』との相談が一番つらい。高齢でIFN治療ができない場合もあり、もっと患者の声を聞いて対策をとるべきでは」と指摘する。
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 肝炎の会は80年の設立以降、病気や治療法について情報提供するため、会報の発行や講演会・学習会の開催などに取り組んできた。活動はすべてボランティアだ。現在の会員は約120人だが、多くはここ10年内の入会者で、入会と同じペースで会員が死亡していくという。一時活動が下火になったが、薬害C型肝炎訴訟が大きく報道された03年ごろから再び活発化。08年1月の薬害肝炎救済法施行後は、「医療機関にカルテが残っていない」との問い合わせが会に殺到した。
 中には、治療法や生活の悩みを数時間にもわたって訴える人も少なくなかった。昨年末まで会長だった男性(57)は「誰かと話をしたいと思っている人は多い。就職を断られた、職場のコップを別にされた、といった話も頻繁に聞いた」と話す。こうした人たちを個別にケアする仕組みは、確立されていない。
 国は、B型肝炎訴訟の和解協議で、未発症者に対し、和解金の代わりに定期検査の費用を助成する方針を示す。近藤さんは「基本法ができたというのに。本来は一般の肝炎対策で進める話では」と、行政の“本気度”を量りかねている。

「未発症でも一時金を」 札幌地裁、国に促す 和解協議 B型肝炎訴訟
2010年10月27日 提供:毎日新聞社 B型肝炎訴訟の和解協議で札幌地裁は26日、焦点となっている未発症者(キャリアー)の扱いについて、和解金を支給しないとする方針の再考を国側に求めた。原告側弁護団によると、石橋俊一裁判長は「キャリアーに一時金(和解金)を出さないという方針が、和解を進める上での最大の障害になっている」と述べ、国にできる限り次回協議(11月12日)で回答するよう要望。国側は「検討する」として持ち帰った。
 国側は和解協議で、慢性肝炎などの発症者には1人500万〜2500万円を払う一方、キャリアーには検査費などの助成にとどめる意向を示している。原告側は、この日提出した意見書で「キャリアーも発症の恐怖を持ちながら生活し、多くが偏見や差別に傷つけられており、一時金がないのは認められない」と主張。ただし額については、従来主張してきた1人1200万円の減額を事実上容認し、06年最高裁判決(1人500万円)を踏まえた対応を求めた。
 また、国側が患者に対して医療費や生活費の助成制度を整備した場合は「助成の額を和解金額に反映させることもあり得る」との考えも伝えた。発症者については、これまで通り薬害C型肝炎と同水準の2000万〜4000万円の支払いを改めて求めている。【久野華代】

未発症者の補償検討を 札幌地裁が国に要請 B型肝炎和解協議
2010年10月27日 提供:共同通信社 全国B型肝炎訴訟のうち北海道訴訟の第6回和解協議が26日、札幌地裁であり、石橋俊一(いしばし・しゅんいち)裁判長は国側に対し、補償対象外としている未発症の無症候性キャリアーについて、補償を検討するよう要請し、国側は持ち帰るとした。協議終了後、弁護団が明らかにした。
 弁護団によると、石橋裁判長は「国側がキャリアーを対象外としていることが協議の最大の障害」との認識を示した上で、次回11月12日に検討結果を示すよう求めた。
 国側は取材に「コメントは差し控える。引き続き誠意を持って協議を続けていく」とした。
 原告側は「一歩前進。今後の大きな支えになる」と評価。一方、国が前回示した和解案については「加害者の自覚を欠く。賠償は義務で、財源に左右されるべきではない」として拒否した。
 和解案は救済対象を最大47万3千人と推計。検査費助成などで対応する意向のキャリアー44万人を除いた上で、症状に応じて1人当たり500万〜2500万円を補償。30年間で最大約2兆円の財政負担になるとした。
 これに対し原告側は「(賠償請求権を持つ)すべての人が請求した場合の『極大値』で非現実的。最小値も示すべきだ」と反論。薬害C型肝炎と同様に、キャリアーを含め1200万〜4千万円を補償するよう、あらためて求めた。
 キャリアーをめぐっては、国側は除斥期間(権利の法定存続期間、20年)を理由に補償対象外としている。一方、先行した同種訴訟の最高裁判決は、除斥期間自体は判断していないものの、ほかの患者と区別せず、国に1人500万円の賠償を命じた。
 原告側は最高裁判例を踏まえ「一時金なしの案は受け入れられない」と主張。検査費助成などは「制度として実現するなら、補償額に含めて考える余地がある」とした。

※無症候性キャリアー
 ウイルスや細菌など感染症の病原体を体内に持ちながら、症状が出ていない感染者。B型肝炎について、厚生労働省は全国の感染者数は110万〜140万人で、約9割が無症候性キャリアーと推計している。ほぼ全員が発症するC型肝炎に比べ、発症率は10〜15%とされ、発症すると慢性肝炎や肝硬変、肝がんになる。