漢語日暦
- 作者: 興膳宏
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2010/07/22
- メディア: 新書
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筆者の興膳宏は「漢語一語だけで一日を代表させるとなると、思ったほどたやすくはない。」「普段さして注意もせず使っていることばが、実は思いがけない淵源を持っていたことを知って目を開かれることもあれば、無縁だった古典のことばが、意外なところで日常生活にかかわっていたりする。そうした面白さを探ることも一つの試みだった。」 紹介された漢語に関して登場する作者・書名は200近くにのぼる。
時々、ラジオやテレビに出て来る人の話で、「弱冠25歳」とか聞くと、何を言っているのかと腹が立ってくる。
本書の1月11日の項で「弱冠」について著者がこう書いている。
「成人の日は、若い女性の振り袖姿ではなやぐ。かつては男子が二十歳になることを、『弱冠』といった。『礼記』曲礼に『二十を弱と曰い、冠す』とある。『冠』は成人男子の象徴で、それをはじめてかぶる儀式は『冠礼』、今の成人式に当たる。『弱』は『やわらか』『しなやか』の意。日本語では『弱』と同音の『若』を『わかい』の意に用いるが、漢語の『若』にその意味はない。ちなみに『礼記』には、『三十を壮と曰い、室(つま)在り』ともいう。」
近頃では30歳過ぎても青年で、その上国の労働政策、大企業の労働者の使い捨てで結婚も出来ない。日本人が幼児化してしまっているのだろうか(幼児にたいして失礼か)。国会のなかの不毛な論争、民主党の内紛劇が、なかなか弱冠になれない日本の国のありさまを象徴している。
このほか、興味を引いた漢語は、「偏食」(2月16日)「辛夷」(2月24日)「桃夭」(3月2日)「獺祭魚}(3月5日)「発生」(4月20日)「瓢鮎」(6月4日)「納涼」(8月4日)「原爆」(8月6日)「世襲」(8月30日)「自然」(9月25日)「華甲」(10月1日)「蟹行書」(10月26日)「茶梅」(11月6日)「清貧」(12月6日)「中酒」(12月11日)などであった。
「原爆」のところで土屋竹雨の漢詩「原爆行」を紹介している。
「怪光一綫 蒼旻(そyびん)より下り 忽然 地震いて天日昏(くら)し。 一刹那の間 陵谷変じ、城市台榭(だいしゃ) 灰燼に帰す。」天から下った怪しい光が、一瞬の間に街も建物も灰にしてしまった。「難に殉じ命を殞(おと)すは戦士に非ず、害を被るは総て是無辜の民」。あの悲劇をくり返さぬためには、核兵器の廃絶しかない。