文学者たちの大逆事件と韓国併合

 とにかく、寒さ厳しい年末である。徳島の我が家でも少しばかり雪が積もった。
 年末までに読んだ本で、紹介していないものが3冊ある。「文学者たちの大逆事件韓国併合」(平凡社新書)「昭和天皇終戦史」「漢文と東アジア」(岩波新書

文学者たちの大逆事件と韓国併合 (平凡社新書)

文学者たちの大逆事件と韓国併合 (平凡社新書)

 文学者にとって大逆事件の与えた影響の、大きさを知らされる一冊である。それは、事件前後だけでなく、昭和・平成の今日まで続いている。日本人作家だけでなく、朝鮮人作家にも、植民地満州国・朝鮮に居住した人にもである。直接、大逆事件に関した小説だけでなく、文学者の作家としての心を折らせる事件であった。著者の高澤秀次は「アジアで最初の近代国民国家を形成した日本の誇りは、歴史的な過去を直視することによって真に回復される。それは、日清・日露の両戦争に勝利した明治国家を理想化して、その暗部に眼を瞑るのとは逆のことだ。」また、著者は「あらゆる『理想』と『虚構』の『不可能性』を歴史的に隠蔽する『坂の上の雲』のような作品に、国民が熱狂していることが、おぞましく感じられた」とも書いている。その通りと思う。
 「昭和天皇終戦史」は、戦争責任ははたして軍部だけにあったのか?天皇と側近たちの『国体護持』のシナリオとは何であったか?として、「昭和天皇独白録」を検証している。そこでは、天皇がいかに戦争責任を回避しようとしたか、太平洋戦争についての記述はあるが、日中戦争については、その正当性を信じて疑わなかった天皇・軍部・官僚たちの姿が明らかにされいる。また、穏健派と言われた人々が、国体護持のために戦争の責任を軍部に押し付け、アメリカもそのシナリオを書いて受け入れている有様が知られる。戦中・戦後直後の支配層の念頭には国民の姿は一切なかったようだ。
昭和天皇の終戦史 (岩波新書)

昭和天皇の終戦史 (岩波新書)

 「漢文と東アジア」も興味ある本であった。日本文化の受容の経過も理解される。学ぶこと少ない私にとって、「漢文訓読」と聞くと日本独自のものかと思っていたのだが、中国を取り巻く東アジア全体に広がっており、その類似性も知られるのであった。しかも、その訓読は仏教経典の受け入れが重要なポイントになっている。著者の金文京は「仏典漢訳が中国を含む東アジアの言語意識に大きな影響をあたえ、そこから訓読をはじめとするさまざまな現象が生まれたこと、そしてそれが言語意識だけではなく、各地域の国家観や民族思想にまで波及したことについては、大方の同意が得られるのではないか」と書いている。
漢文と東アジア――訓読の文化圏 (岩波新書)

漢文と東アジア――訓読の文化圏 (岩波新書)

 長年の日中・日韓・日中韓三国の歴史、東アジアとのかかわりを見つめ直して、今後の政治・経済・文化交流を強めていく必要があるのではないか。そうすれば尖閣諸島竹島などの領土問題についても、短絡的な軍事強化などと言うばかげた発想は出てこないだろう。