B型肝炎訴訟 全国原告団会議

 1月22日「B型肝炎訴訟の全国原告団」の総会が、東京・四谷の主婦会館で開かれたので参加した。会議には、各地域の原告団の代議員29名(大阪からは6名)、全国原告団の代表・役員、オブザーバー25名、弁護団など80名位が参加した。マスコミも20社ほどは来ていただろう。
 1月11日に札幌地裁で出された「和解所見」に対する対応を決める会議であった。国はすでにマスコミの報道によれば、受け入れを決めていた。
 代議員・オブザーバー・弁護団からは多くの意見出されたが、結論としては和解所見を受け入れることになった。「小異を捨てて大同につく」という、高い見地からの決断であった。
 受け入れに当たって原告団は「声明」をまとめて発表した。以下は、その内容である。


和解所見に対する全国原告団の声明
                 2011年1月22日
                           全国B型肝炎訴訟原告団
1 はじめに
(1)私たちは、本日、本年1月11日に札幌地方裁判所から出されたB型肝炎訴訟の和解所見(「基本合意案」)をうけて、この和解所見に従った和解が可能か否か検討しました。
  和解所見は、特にキャリア被害者に対し恋愛や結婚での差別を受けた被害、就職差別を受けた被害、肝炎のみならず肝ガンを発症する不安に襲われた被害を埋めあわせるのには救済内容が不十分であるなど、私たちが本件訴訟で求めてきたものからすれば決して満足できるものではありません。現にキャリア原告から受け入れ困難との意見も出されました。他方、病状重篤な原告も多く、一刻も早い解決を求める意見も多く出されました。また、和解所見には感染被害を発生、放置してきた国の責任について言及されていないことの不十分性を指摘する意見、発症後20年経過の被害者の扱いが明確でないとの意見も出されました。

(2)これらの意見を集約し、討論した結果、私たちは、次の結論に至りました。
和解所見に示された和解の要件と水準については、早期解決のために苦渋の選択ではあるが、基本的には受け入れる、しかし、和解実現のためにはなお解決されるべき課題が多く残されており、以下の諸点の実現・解決が、実際に国との間で和解の基本合意を締結する前提条件であることを確認しました。

2 被害者の全員救済の実現
(1) 予防接種を受けた事実について不可能な証拠提出等を求めないこと
 被害者認定の最大の問題は、国が、集団予防接種を受けた事実として、母子手帳や予防接種台帳などの提出に固執してきたことです。しかし、幼少期の予防接種は法律で強制され、多数の機会があったから、ほとんど全ての国民は受けています。
 和解所見は、陳述書などによる代替立証を認めており、全員救済に道を開きました。しかし、国が数十年前の接種の事実に関して原告らに不可能な証拠の提出を求めることがあっては、全員救済は実現しません。全員救済が現実のものとなるように、陳述書の記載内容やその余の因果関係・病態認定方法を含む和解所見の具体化について、国が原告団弁護団との間で、さらなる協議・確認を行うことを求めます。

(2) 20年以上苦しんでいる慢性肝炎発症患者を切り捨てないこと
 国は除斥期間を強く主張していますが、慢性肝炎を実際に発症し、20年以上の闘病生活を強いられている被害者までもが切り捨てられるのは、「長く苦しんだものほど救済から排除される」ことになり、絶対に認められません。この点にこそ、立法を含む政治による解決を求めます。

3 国の加害責任に基づく謝罪等
(1)被害者は何の落ち度もなく大きな被害を受けてきました。国は、国民に対して、集団予防接種による加害と被害の事実とその後の放置・隠蔽の事実を正確に説明して理解を求めたうえで、被害者に対して謝罪すべきです。
 私たちは、国が、加害責任に基づく真摯な謝罪を行うよう求めます。

(2)そして、国民全体に対する危険な注射器の使い回しの結果、多数の持続感染者(キャリア)は、いまだに自分が集団予防接種の被害者であることはおろか、持続感染者であることすら気づいていません。
 国は、直ちに全国民に謝罪し、自分が被害者でないかを確認するためにB型肝炎検査を受けるよう、徹底的な宣伝行動を行い、被害者に治療を受ける機会を与えて、誠実に償う姿勢を示すよう求めます。

(3)また、国はまたも財源論を強調し、不当に過大な金額をあげてさらには増税論までちらつかせて国民を惑わせ、国民と被害者の間にくさびを打って再び原告ら被害者を苦しめようとしています。このような国の態度は被害者に対する差別・偏見をいっそう助長するおそれがあります。国民に対して、集団予防接種による国の加害責任を正確に説明することなく、被害者への謝罪もしない現在の政府の姿勢は、決して許すことができません。

4 全面解決のために必要な施策
(1)原告ら集団予防接種によるB型肝炎被害者は、病気そのものによる被害のみならず、故なき差別・偏見で苦しめられています。集団予防接種による加害事実を隠蔽し、救済を長期間放置してきた加害者としての国が、集団予防接種の加害と被害の正確な事実関係の説明を国民に対して行い、正確な医学知識の普及による差別・偏見をなくす施策(医療機関・医療従事者の対応についての指導・教育を含む)をとることは、加害者としてなすべき当然の責務です。「私はB型肝炎患者です。」と普通にいえる社会が実現してこそ被害者にとって本当の解決といえます。
   また、本件の真相究明と再発防止策も不可欠です。
 そして、キャリアを含む全てのウイルス性肝炎患者が、安心して検査・治療を受けて生活ができ、さらなる治療薬の研究開発や治療体制の充実がなされることなどの恒久対策は、本訴訟の大きな目的です。
 私たちは個人の賠償の問題ではなく、これらの対策が少しでも実現できるようにと考え活動してきました。私たちはこの恒久対策をさらに進める活動を今後も行っていきます。

(2)これらの施策について国が真摯に対応することを約束し、その実現のための原告団弁護団と政府との協議機関を設置することを求めます。

5 和解実現に向けての今後の対応
 以上のとおり、裁判所の和解所見を前提にしつつも、和解実現のための大きな課題が未だ残されているとの確認にもとづき、全国B型肝炎訴訟原告団は、残された課題の解決によって、和解実現に向けて行動します。
以上

 

 和解所見は、私たちが求めてきた水準からみて、多くの問題点を抱えてきてはいるが、病状が重篤な被害者も多くおり、早期解決が緊急の最大課題であるとの認識から、「苦渋の選択」ではあるが、代議員全員の賛成で受け入れを決めた。
 現在の国の姿勢では、被害者全員救済の道は遠い。先のブログでも書いたように、民法724条を盾に取った、被害者切り捨ての国の除斥期間(20年間)への固執、国民への謝罪を含めた真摯な姿勢がないこと、B型肝炎患者を多くつくりだしたことの真相究明と今後の再発防止策、治療・生活保障などを含めた恒久対策、差別・偏見をなくす対策、財源問題を口実にした被害者と国民間の分断政策、などなど。これから国との協議をしていく上で、課題は山積している。和解所見を受け入れたこれからが、被害者救済実現への、新たな一歩になる会議であった。
 記者会見では、ある記者からこれまで被害を放置してきた、厚労省の役人に対しての感想を求めた質問があった。ジャーナリズムとしての見識を疑わせる質問であった。私たちが求めているのは、個人の責任ではなく、こういう事態を長期にわたり放置してきた、厚労省の仕組み・体質の究明と改善である。個人の責任に帰しては、被害は再生産されるばかりである。ジャーナリズムもその問題点を追及しなければ、ただの芸能記事しか書けないものとなってしまう。もう「社会の木鐸」という言葉は、死語になってしまったということか。
 また、集団予防接種は多くの感染症の予防に効果があり、必要だったとして、一部の者がB型肝炎に罹患したのはやむを得なかった、というような意味の発言が見られるが、それは違う。私たちは集団予防接種湯に異議をとなえているのではない。注射針の使い回しに問題がある、と指摘しているだけである。医療器具の入手が困難な時代でも、注射筒(当時はガラス製)は煮沸消毒して使っていたわけで、当然B型肝炎ウイルスは死滅していた。集団予防接種をすすめた厚労省は、当然使い回しが危険なことは承知していたはずである。それを1988年まで放置してきたのであるから、そういう体質がどこから生まれたのか、どうすれば克服できるかのを明らかにしてもらいたいものだ。自己保身のためでなく、国民の生存権憲法25条)を実践する立場から。


写真は宮内フサ(1985年102歳で死去)作品 力士取達磨 92歳

俚謡 (湯朝竹山人 辰文館 大正2年刊 1913年)から
  末は袂を 絞ると知らで 濡れて見たさの 花の雨
  夢になりとも 情けはよいが 人の辛さを 聞くもいや
  寝ても覚めても 忘れぬ君を 焦がれて死なぬは 異なものじゃ