B型肝炎訴訟 逆転勝訴の論理

B型肝炎訴訟 (逆転勝訴の論理)

B型肝炎訴訟 (逆転勝訴の論理)

 本書を出版しているかまくら春秋社は、自社紹介で「文芸出版社として1970年に創立。地域に根ざす一方、広く世界にも目を向けた出版や文化的なイベント、事業に取り組んで約40年になります。」とあるように、マイナーな地方出版社ではあるが、手堅いものを地道に出版しているようだ。
 鎌倉には多くの文化人が住んでいた。温暖な気候と静かな環境、それでいて東京からも比較的近かったために、今でもそうであるが別荘地がたくさんある。戦前から戦後すぐにかけて鎌倉文庫と言う出版社があったが、そんな雰囲気を受け継いでいる出版社なのだろう。
 著者の略歴は、1943年東京生まれ。医師、浄土宗松光寺住職。東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院三井記念病院などを経て、2004年昭和大学藤が丘病院長、09年せんぽ東京高輪病院長。1992年「ウイルス性劇症肝炎の病態の解明と治療法の確立」で昭和大学より上篠賞受賞、とある。
 いま私が関わっているB型肝炎訴訟は、1989年6月にB型肝炎患者5人の被害者が札幌地裁に損害賠償を求める提訴したことから始まった。2000年3月の地裁判決では原告が敗訴した。2000年4月に札幌高裁へ控訴し2004年1月には高裁で原告の一部勝訴判決があり、2006年6月の最高裁判決では原告が全面勝訴した。国の原告に対する賠償責任が認められたのだが、国は他の多くの被害者を救済する措置を取らなかった。そこで2008年から新たに国に謝罪・賠償責任を求める裁判が起こされた。
 著者は、先行裁判の二審の途中(2002年10月)から原告側に立って、集団予防接種の時の注射器の使いまわしが、多くのB型肝炎患者を生んだことを証言した。
 先行訴訟が始まった頃、北海道肝炎友の会の初代会長であるSさんは、なかなか原告の立場に立って証言してくれる医師がいない、東京やあちらこちらに行って証言をしてくれる医師を探していると、肝炎患者の全国総会などで語っていた。
 医療講演会などに全国的に有名な医師を呼んでで話をしてもらうのだが、それらの先生もB型肝炎の蔓延の原因が、集団予防接種の時の注射器の使いまわしにあると認めるのだが、いざという時には真実を語ってくれない。ひどい医師は今までに語っていた自説を曲げてまでも国側に有利な証言をする。本書では、第二章でそのありさまが書かれている。
 権威と利権に囚われない著者の札幌高裁での証言は、最後にこう結んでいる。「現在、医学はEBM(evidence-based medicine:根拠に基づく医学)時代になっており、この場合、多くの無作為化試験を集めたメタアナリスが最も証拠能力が高く、専門家個人の意見が最も証拠能力が低いとされている。しかし日本の法廷では、いわゆる『権威者』を証人にして、その証人がその時適当な思いつきを述べるとそれが最有力証拠となる。この点で日本の裁判制度は極めて遅れている」
 著者は権威にたてついたのだから、勿論被害は受ける。日本肝臓学会と通じての知己や東大の医局の先輩たちが、国側の証言に立つのだから、「この三人との対立は、その後、陰に陽に学会や厚労省での班会議での私の立場を不利にしました。」


 俚謡 (湯朝竹山人 辰文館 大正2年刊 1913年)から
 ○親と親との 約束なれば 嫁(ゆ)かにゃなるまい 戻るとも
 ○月と日と 親と子供と 馴染みと鏡 何時も見立てて 眼に厭きぬ




 上の写真は我が家の面 おかめ(栃木のかんぴょうで作った面)