小川洋子「犬のしっぽを撫でながら」

犬のしっぽを撫でながら (集英社文庫)

犬のしっぽを撫でながら (集英社文庫)

 作家、小川洋子のエッセイ集。本書は2006年4月に集英社から単行本で出された。
 5部に分けて文章が綴られている。
 「数の不思議に魅せられて」 
 「『書く』ということ」
 「アンネ・フランクへの旅」
 「犬や野球に振り回されて」
 「家族との思いで」
 
 どの文章も楽しく読めたのだが、「一本の線が照らす世界」の中で、「学生時代、ずっと数学が苦手だった。中学の頃はまだ要領のよさだけでごまかしていたが、高校に入り、三角関数のsin(サイン)、cos(コサイン)、tan(タンジェント)が登場してくるあたりから早くもあやしくなりはじめた。やがて数学は、私など手の届かない深い闇の世界にのみ込まれて行ったのである。」と書いているところは全く私と同じであった。
 算数と数学のあいだには大河があって、人をわたらせようとしないのか、それとも教師の教え方が悪いのか。全く違うことは、彼女は後年「博士が愛した数式」という傑作をものしたことで、本書の中でも数学を理解するその努力ぶりには感心させられた。
 「数の不思議を小説に」のなかでは、なぜ小川が数学を題材にした「博士が愛した数式」を書いたかについて言及している。そこでは「数学者は決して無感情に無機質な数を扱っているだけの人ではない。数を通して、世界の在り方、人間の在り方を理解しようとしている人々だ。ならば、数学者を主人公にして、数の世界を舞台にした物語が書けるに違いないと思ったのです。」
 デビット・ゾペティの解説もよかったですね。
 デビット・ゾペティ(David Zoppetti, 1962年2月26日 - )は、スイス生まれ、日本在住の小説家。イタリア系。非母語である日本語で作家活動を行う。1996年、『いちげんさん』で、第20回すばる文学賞を受賞。第116回芥川賞候補にのぼる。という紹介があった。
 彼は解説の中で、「博士が愛した数式」のフランス語訳のエピソードを紹介しているが、この本を紹介したフランスの片田舎の出版社の活動を見ていると、本当に文化を愛する人々が関わっているのだなと感じさせられ、なんでも競争社会にしなければ済まないという、日本の在り方に大きな疑問を感じさせてくれるのである。

 そこで、我が家にあった数学関係の蔵書を調べて見たら、下記のとおりであった。もう、40年近くも数学とは無縁の生活を送っていることが理解された。

 数学入門 上 遠山啓 岩波書店 新書 1962年3月購入
 数学入門 下 遠山啓 岩波書店 新書 1962年3月購入
 数学のあたま 高野一夫 講談社    1970年5月購入
 数学の学び方・教え方 遠山啓 岩波書店 新書 1974年7月購入
 数学物語 矢野健太郎 角川書店 文庫 1974年5月購入



我が家の張子面 狐


俚謡 (湯朝竹山人 辰文館 大正2年刊 1913年)から
 ○梅の匂ひを 櫻に込めて 枝垂柳に 咲かせ度い
 ○梅の香りを 櫻に込めて 意気な欅(けやき)に 咲かせ度い
 ○梅に絡まる 柳の糸を 解きに来たのか 春の風