明治東京畸人傳

 「明治東京畸人傳」の著者は森まゆみ(新潮社 1996年1月 1,600円)。
 Wikipediaの紹介によると『』東京都文京区動坂出身。早稲田大学政治経済学部卒、東京大学新聞研究所修了。
 出版社で企画・編集の仕事に携わった後、フリーとなり、1984年10月に地元の主婦仲間の仰木ひろみ山崎範子と地域雑誌「谷中・根津・千駄木」(谷根千工房)を創刊し、編集人となる。地元の人々への「聞き書き」を中心とした編集方針で話題となり、「地域雑誌」を越えた人気を得る。また、「谷根千地図」などを発行し、同地域を人気スポットにさせた(なお、雑誌「谷中・根津・千駄木」は2009年春発行の93号で終刊予定)。』という経歴の持ち主である。
 東京の、谷中・根岸・千駄木に嘗て居住した人物に焦点をあてて、当時の景色も加えながら書いているが、なかなか面白い本である。25人が登場するが、守田宝丹翁・三輪伝次郎・川口慧海・吉丸一昌円朝らであったが、どの人物にも愛情を傾けている。著者がそこで生まれ育ったから、愛着も一入なのであろう。
 「畸人」という語について著者はこう語っている。『ここで畸人というのは「変わり者」という意味ではなく、尋常ではない、素敵な面白い生き方をした人ということである。そして私がこの本を書いたのは隠と隠ならざるを問わず、「かしこき人の世にしらざれしををしむ」という心持からである。』としている。
 畸人伝で有名なのは、伴蒿蹊の「近世畸人伝」である。

近世畸人伝/続近世畸人伝 (東洋文庫 202)

近世畸人伝/続近世畸人伝 (東洋文庫 202)

 伴蒿蹊は題言で畸人の定義をしているが、難しいので校注者の宗政五十緒の説明を引用すると、「すなわち、畸人を大きく二つに分類する。その一は『荘子』にいう『畸人』であった。これには売茶翁、大雅堂などが入る。(中略)その二は、世人に比べて行うことが奇である人で、これは道を尽くしたという点で奇であるので畸人と見るのである。これには中江藤樹貝原益軒など仁義忠孝の人が入るのである。」
 畸という語は今ではどれも奇として表記されている。しかし、漢和辞(角川書店)によれば、田と奇の組み合わせで解るように「①井田に区切れない、残りの田 ②めずらしい、普通と変わっている ③不具者」となっている。四角くない田なので奇なのである。
 もっとも、小泉元首相は「奇人」ではあるが、本書で取り上げられた畸人の人々の範疇には入りようがない。