ビゴー

 

ビゴーが見た明治職業事情 (講談社学術文庫)

ビゴーが見た明治職業事情 (講談社学術文庫)

 「ビゴーが見た明治職業事情」は、フランス人画家のジョルジュ・ビゴー(1860−1927)が日本滞在中(1882〜1899)までに画いた絵の中から、当時の日本人のいろんな職業をまとめたものである。1882年(明治15年)に22歳で日本文化と浮世絵にあこがれて日本に来たビゴーは、辛辣な筆致で日本の風俗を描いている。下層の庶民から大臣・華族などまで、日本人が画かなかった、気にも留めなかった人物を描いているので、今では貴重な資料にもなっている。明治中期はまだ写真技術が充分には発達していなかったので、画家が記録したものが大きな役割を果たしていた。
 本書では、人口の1パーセントにも満たない上流階級、1割足らずの中流階級、そして9割を占める下流階級の明治社会の実相を。この「職業」というキーワードで著者は読み解いている。100近くの職業を持つ人々の様子が大変面白い。今ではもう見られない職業が絵によって紹介されている。
 屑拾いの図は細密な銅版画で画かれている。大きな籠を腰につけて長い火箸のような棒で、器用に屑を拾っている。編み笠を被り草鞋を履いている彼の衣装は、ところどころが破れているようで、彼の生活の苦しさが表現されている。著者は、明治19年12月1日(1986年)の朝野新聞の記事を紹介している。「先年我邦へ渡来し、自今麹町五番町辺に住居する仏国の画工ビゴーは、我が東京市中を徘徊せる紙屑拾ひあるいは新内語りなど諸商人を呼び入れ、日本人の最も卑しき状態を写して、その本国に送りやるとのことなるが、これ等は大いにわが国風に関し外人の軽蔑を受ける一端ともなるべければ、何とか御免をかうむりたきものなり」
 ひとにぎりの超富裕階層の章では貴族が紹介されている。画集「正月元旦」に出てくる子爵は、外務省での年頭行事、挨拶回り、夕食の多忙な1日がこの身支度から始まるとして、かれは鏡を見、奥方が彼の服を最後のひと刷毛で綺麗にしているところで、これからいよいよ外出するようだが、彼は家の中でもう靴を履いている。
 今では見られない職業では、番頭・牛肉屋・下駄の歯入れ屋・鍋焼きうどん屋・下男・飴細工屋・角兵衛獅子・遣り手・矢場女・屑拾い・人力車夫・慶庵(雇い人・奉公人の斡旋を職業とする人)・御者・踏切番・家令などがある。
 ビゴーの生涯については、下記の本が詳しい。
フランスの浮世絵師ビゴー―ビゴーとエピナール版画

フランスの浮世絵師ビゴー―ビゴーとエピナール版画

 彼がフランスに戻ってからの作品も紹介されている。
 「ビゴーが見た明治職業事情」の著者の清水勲はビゴーだけでなく、幅広く日本の漫画について研究している。彼の著作・編集になるもので、我が家にあるものは、下記の通り。とにかく楽しい本ばかりである。
 「ビゴーが見た日本人」「ビゴーが見た明治ニッポン」「江戸のまんが」「漫画が語る明治」(以上講談社学術文庫)「近代漫画百選」「岡本一平漫画漫文集」「ビゴー日本素描集」「続ビゴー日本素描集」「ワーグマン日本素描集」(以上岩波文庫)「漫画の歴史」(岩波新書)「風刺漫画人物伝」(丸善ライブラリー)「マンガ誕生」「漫画にみる1945年」(以上吉川弘文館)「明治の面影・フランス人画家ビゴーの世界」(山川出版社)「外国漫画に描かれた日本」(丸善ブックス)「ビゴーが描いた明治の女たち」(マール社)「大阪漫画史」(ニュートンプレス)「明治まんが遊覧船」「昭和マンガ風俗史」(以上文藝春秋)「漫画の歴史」(河出書房新社)「漫画雑誌博物館」(全5冊 国書刊行会)「ワーグマン素描コレクション}(上下2冊 岩波書店)