漢字道楽

 以前、同じ著者の「漢字三昧」を読んで面白かったので、「漢字道楽」も購入した。

漢字三昧 (光文社新書)

漢字三昧 (光文社新書)

漢字道楽 (講談社学術文庫)

漢字道楽 (講談社学術文庫)

 著者の実家は活版印刷所であったので、その頃の漢字との関わりから話をしている。漢字辞典では「卍」が6画で、「巨」は「工部」で引き、「与」は「臼部」で引くなど、子ども時代に仕事を手伝わされた事が、役に立ったなどの話が面白い。
 漢字の作られ方では「六書」(りくしょ 象形・指事・会意・形声・転注・仮借)では含むことのできない漢字の作られ方もあり、六書がそれまでに作られてきた漢字の成り立ちを分類するための方法であることを話している。
 私が学生時代に著名だった漢字学者は藤堂明保で、「漢字の起源」を読んだことがある。これは今でも講談社学術文庫にある。
 「女」という字は女性がひざまずいている形を表しており、男尊女卑の事例として取上げている。そこで、「男」という字を漢和辞典角川書店)で調べてみた。これは「力」と、音を示す「田 でん」とを合わせて、田で力仕事にたえる人、つまり「おとこ」をあらわすと記述していた。
 本書では「女」を二つ横に並べると「がやがやとやかましく言い争う」という意味になるが、「男」を横に二つ並べると「双子」の意味になるという。「木」を三つ書くと「森」になるが、それと同じように三つ書く文字を63も紹介していた。ほとんど読めない。女を三つ書くと「姦」(かしましい)という字になる。同じように男を三つ書く字もでていたが、私にはどう読み、どんな意味なのか解らない。
 中国語は表意文字がほとんどであるが、外国から多くの言葉が入ってくると表音文字で表記しなければいけない場合が多くなってきた。日本の場合は、漢字と表音文字である「ひらがな」「カタカナ」があるので便利である。「ひらがな」「カタカナ」と同じように英語やフランス語などは表音文字だから、60種類ほどの字があれば全てを表現できる。中国語では「克林頓」は「クリントン」、「布什」(中国音bu shi)は「ブッシュ」と音訳して記述する。「ベンツ」は「奔馳」とあったが、いかにも速く走りそうな感じがする。そこで「プリウス」をトヨタのホームページで調べてみたら「普鋭斯」と表記していた。これでは燃費のよさが解らない。私には、イラクアフガニスタンの国民のみならず、世界の人々は「ブッシュ」は「不実」(中国音bu shi)と記述するほうが、彼の果たした役割から見ても妥当と思う。
 漢字辞典で最大のものは「大漢和辞典[rakuten:book:10950885:detail]と思っていたが、そうではないようだ。大漢和辞典は49,964字が収載されている。編者の諸橋徹次は戦争中に編纂中の大辞典の原稿の多くを焼失してしまい、大変な苦労の中で当時世界で一番字数の多い漢字辞典を1955年に完成させた。
 その後中国では1990年に「漢語大辞典」(約56,000字)、1994年に中華字海」(約85,000字)が出版された。
 「大漢和辞典」は総計17,900ページ、熟語約53万字が収載されているから、規模で考えると今でも世界最大の漢字辞典である。「中華字海」を調べてみた。総ページ1784、1万円ほどで購入できる。
 著者は最後にこう記述している。「甲骨文字に代表される漢字の情報伝達効率の優秀性を、情報化社会の到来が叫ばれている今、あらためて認識する必要があるだろう。漢字はこれからの文化を創造していく際の先頭に立ちうる、新しい時代に適した文字なのである。」