戦争童話集

 いろいろと小説は読んでいるが、野坂昭如の本は初めてである。アニメになった「火垂るの墓」はテレビでは何回も放映されているので見たことがある。この戦争童話集も同じ系列のものである。戦争童話集は1975年7月に中央公論社から出された。1980年に文庫化され2006年10月に第3版が出されたのだから、あまり売れているとはいえないが。

 本書はDVDにもなっているようだ。
 内容は以下の通り。「小さい潜水艦に恋をしたでかすぎたクジラの話」「青いオウムと痩せた男の子の話」「干からびた象と象使いの話」「凧になったお母さん」「年老いた雌狼と女の子の話」「赤とんぼと、あぶら虫」「ソルジャース・ファミリー」「ぼくの防空壕」「八月の風船」「馬と兵士」「捕虜と女の子」「焼跡の、お菓子の木」
 どの童話も、戦争・空爆という騒々しい世の中で、大変静かな世界として動物も含めた主人公たちが生きて死んでいる。どの話も8月15日を起点にしている。敗戦がもたらしたもの、戦争がもたらしたものは、弱者への残酷な仕打ちであった。戦争と国家という圧倒的な強者に対し何もできずに死んでいった人たちへの、鎮魂の話であると思う。
 筆者は1930年生まれで敗戦の年は15歳。神戸で戦災に遭っている。2002年9月の「改版のためのあとがき」でこう書いている。「中年にさしかかり、少年時代をなつかしむにしては、世間様同様、眼先にとりまぎれる明け暮れ、にしても、あの『八月十五日』は何だったのかという思いは底に澱む。この日から始まった『新生日本』、たしかにあの八月十五日の年から数年間、夢にも思わなかったまぎれもない豊かさを具体的に手にしながら、あやふやな感じがつきまとう。
 今でもそうだが、舗装道路のヒビ割れに育つ草を眼にして、これは『食える』、頑丈な庇の下にいると、『ここなら焼夷弾の直撃はない』、風光明媚な山間部では、水を確かめ、つまり『疎開』にふさわしいかどうか。時代にぴったり身を合わせ、その風潮の中で気ままに生きながら、気持ちの底には、こんなのが続くはずないと、さほど深刻でもない。栄耀栄華をさらに味わい深くするための隠し味かもしれない。だが、戦争をひきずっていることは確か。」