マルクスは生きている

マルクスは生きている (平凡社新書 461)

マルクスは生きている (平凡社新書 461)

 昨年から、小林多喜二マルクスに大きな関心が寄せられている。世界的な経済危機、労働者の大量解雇・派遣切りなど、国民を取り巻く経済・労働環境が大幅に悪化している。医療・介護・福祉などは、小泉の構造改革で大打撃を受けた。その窮極の表れが今回の危機である。
 小林多喜二の「蟹工船」は漫画にもなって、いくつかの出版社から出ている。ソ連が崩壊して資本主義万歳と勝利を言っていたのが、幻の勝利だと言うことがハッキリしてきた。マルクスの先見性が再認識されてきている。
 本書は、「唯物論の思想家・マルクス」「資本主義の病理学者・マルクス」「未来社会の開拓者・マルクス」の三部で構成されている。
 著者の不破哲三は6月7日号の赤旗日曜版で、本書を書くときに考えたことについてこう語っている。「一つはマルクスの全体像を伝えたい。経済学、哲学、革命家など、いろいろな面がありますが、彼にとっては、全部一つなんです。 中略 二つめに、マルクスの理論の発展ぶりです。彼は、理論活動を始めてから生涯を終えるまで、自分の理論を発展させることに力をそそぎました。 中略 三つめは、その『マルクスの目』で現代の日本と世界を見ることの面白さをつたえたい。」
 資本主義をおびやかしているのは、今回の世界的金融危機(恐慌)だけではなく、「地球温暖化」という窮極の災害に直面しており、それに資本主義は対処できないと指摘している。資本主義的生産は剰余価値への渇望を満たすために、なんでも犠牲にしてはばからないことを、自分の魂とも行動原理ともしている。日本は、1997年の京都議定書を批准しながらもCO2の排出量を増やしてきた。今回議論されている削減幅もその量の少なさから各国の批判を受けている。しかも、その削減の手立てさえハッキリ示すことが出来ないのが、財界と麻生政権である。
 1990年とくらべ2006年の排出量の統計は、本書によると以下の通りである。
 ドイツ−18.2% イギリス−15.1% フランス−3.5% 日本+5.3% アメリカ+14.4%。しかも、アメリカと日本だけで発達した資本主義国の総排出量の60%以上を占めているのだから、世界に対する責任は重い。
 そして著者は地球温暖化に対する対応が、資本主義・社会主義の未来を占うものとして、「地球温暖化という人類的な危機は、いやおうなしに、一方では、資本主義体制が、この危機に対応する力を持ち、将来にわたって存続する資格を持つ大勢であるかを点検する舞台となり、他方では、社会主義の体制が、資本主義体制よりも、『社会的理性』をより発揮できる社会形態として、人間社会の存続と発展を保障する資格をもちうるかどうかを点検する舞台となろうとしています。」と述べている。
 また、社会主義を目指す潮流が、アジア・アフリカ・ラテンアメリカで大きな流れとなってきているのを、紹介しているが、その点で見ると、日本のアメリカ一国に追随する姿の異常性が明らかになるのである。