漢文力
- 作者: 加藤徹
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/08/01
- メディア: 文庫
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例えば、「日本でも外国でも、理系の学者や研究者でカルト宗教に引っかかる人は、意外に多い。その理由は、近代科学がwhyの探求を禁止しているためです。教祖様がwhyめいたことを喋るのを聞いただけでコロリと参ってしまう科学者は、後を絶ちません。だがそういう科学者こそ、孔子の『知らざるを知らずと為せ』という言葉を座右の銘にしてほしいものです。」
ところどころに金子みすゞの詩が出てくるのも楽しい。あの世の有無について、古今東西の学者の幾千年にわたる論議は、結局、金子みすゞの「見えないもの」という詩にとどめをさすと指摘している。
ねんねした間になにがある。
うすももいろの花びらが、
お床の上に降り積もり、
お目々さませば、ふと消える。
誰もみたものないけれど、
誰がうそだといひませう。
まばたきするまに何がある
白い天馬が翅(はね)のべて、
白羽の矢よりもまだ早く、
青いお空をすぎてゆく。
誰もみたものないけれど、
誰がうそだといへませう。
小泉元首相は市場原理主義、効率第一主義で国民生活を破壊してしまった。このことについて「無用の用」について書いている。「機心」(著者の解説によれば「効率ばかり追いかけると、自分が仕事をするのではなく、仕事に自分が追われるようになる。いわゆる『自己疎外』に陥ってしまう。これを漢文では『機心』 )と言います。
「人皆知有用之用、而莫知無用之用也」(『荘子』人間世篇) 人皆有用の用を知るも、而(しか)も 無用の用を知ること莫(な)きなり。 世間の人は『有用の用』しか頭にない。『無用の用』については理解していない。」
これについての解説も面白いのだが、興味のある人は本書を読んでほしい。
老子の言葉も引用している。「大道廃れて仁義有り。慧智出でて大偽あり。六親和せずして孝子有り。国家昏乱して忠臣有り。 道徳が衰えて乱れると、修身がが話題になる。知恵が発達すると、ペテンが横行する。家族や親戚が不和になると、孝子があらわれる。国家が混乱すると、忠臣があらわれる。 英雄や美談がもてはやされる社会は、裏返して言うと、不安を抱えた社会なのかもしれない。」
財界や政治家が「修身」の必要性を声高に唱える社会は、その人達がもっとも「修身」を身につけるべき最初の人だということを示している。漢文は修身の必要性を、必ずしも唱えたものではないのだけれど、どういうわけかそう思わせる漢文教育は避けたいものだ。漢文は、もっと楽しいものだと思う。