大江健三郎 「自分の木」の下で

 もう、5年ぐらい前になるだろうか、私たち夫婦と次女夫婦で西日本最高峰の石鎚山に登った後、大江健三郎が生まれた愛媛県内子町の「石畳の宿」で泊ったことがある。山間の静かな古い町並の佇まいが印象的だった。こんなところで大江は生まれ育ったのだと思った。
 しかし、大江健三郎の本はあまり読んでいない。我が家にあるのは「ヒロシマ・ノート」「広島からオイロシマへ」「静かな生活」「あいまいな日本の私」だけだった。小説は1冊しかない。
 

「自分の木」の下で (朝日文庫)

「自分の木」の下で (朝日文庫)

 本書では、彼が子どもだった頃や、子供達に対する思いが書かれている。先日、中学生の女子二人が自宅に放火して、親が焼死する事件が起こった。事件に至る詳細は私にはわからないが、悲しくも痛ましい出来事である。丁度、そんな時に本書を読んでいたので、大江の考え方に同感した。「取り返しのつかないことは(子供には)ない」という一文がある。子供の自殺とか殺人について書かれているのだが、「子供が取り返しのつかないことをする、とはどういうことか?殺人と自殺です。ほかの人間を殺すまで暴力をふるい、自分を殺すまで暴力をふるうことです。そして、この二つの恐ろしいことは、一つなのです。『暴力』と『人間のいのち』ということを結んでよく考えれば、あなたたちも、殺人と自殺の二つが、ひとつのことだ、と思いあたられるのじゃないでしょうか?このような暴力を子供達にふるわせない、と決意することが人間の『原則』だ、と私は信じます。」。ここでは、大江の妻の兄である伊丹十三の自殺についても、少し触れている。
 大江が、内子の町で育ってきた環境がこのような考えに辿り着き、憲法九条を守る運動に立たせているのだと感じさせられた。「この本を、私はまだ子供といってもいい若い人たちに読んでもらいたい思いで書きました」と著者は語っているが、もう子育てを終わった私にとって、もう一度子育てをするなら、この本を読んでからにしたいと思わせられた。