事情のある国の切手ほど面白い

事情のある国の切手ほど面白い (メディアファクトリー新書)

事情のある国の切手ほど面白い (メディアファクトリー新書)

 「切手の面白さは、図柄の美だけにあるのではない。切手はメディアとしての魅力も併せもっている。」と冒頭に著者は書いている。今までにも何冊か彼の本を読んだが、切手が示す世界の動きが面白い。
 今の若い人にはとても想像できないことだろうが、かつて北朝鮮反核を訴えていた。その北朝鮮反核切手も紹介されている。また、反捕鯨国家のニュージーランドの矛盾についても、発行された切手から実例を示している。それは、1989年に発行された「ニュージーランドの遺産」と題する切手で、先住民のマリオ族による捕鯨の場面を取り上げた一枚である。先住民にとって鯨は貴重なタンパク源であった。欧米の捕鯨はもともと鯨油を確保するためのもので、日本のように鯨肉を食べるものではなかった。
 日本の切手についても紹介されている。日本政府は北方領土について《日本の北東端に位置する歯舞群島(はぼまいぐんとう)、色丹島(しこたんとう)、国後島(くなしりとう)、択捉島(えとろふとう)》としている。
 日本政府はロシアに対し、千島の南半分の国後、択捉と、千島に含まれない歯舞、色丹のみ返還を求めている。これは非常に誤った考えだと思う。歴史的経過から判断すると、もともと北海道の一部である歯舞島・色丹島に加え、全千島の返還をロシアに求めるべきであろう。
 著者によると、2010年に発行された「ふるさと風景第7集」の切手シートでは、北海道の地図から択捉島が除外されているというのだ。また、1984年の「天気予報100年」や1986年の「日本標準時制定100年」などの記念切手からも択捉島は描かれていないと指摘している。
 今回の尖閣諸島の問題も同じで、きちんと根拠ある歴史的事実を示して、毅然とした態度で臨まないといけないと思うのだが。切手に、択捉島がないということは、その領有権を放棄したに等しい。