山王書房  「昔日の客」

 土曜日の朝は毎週忙しい。12月18日もそうだった。そんな時ちょっとテレビを見てみると、某放送局の「週刊ブックレビュー」が放送されていたのだ。本の紹介者が気になることを言っていた。「山王書房」の主が書いた本で、1978年刊行されたものの再刊であると。しかもあまり部数も多くなくもうないだろうとも言っていた。
 なぜ気にかかったかと言えば、この古書店は私が高校を卒業するまで住んでいた東京・大田区馬込の近く(臼田坂を下ったところ)にあり、通学する時に乗るバス停に行くまでの途中にあったからだ。時々立ち寄ってみた。
 山王書房については、2年半前に自費出版した「孺子の牛」の「馬込文士村」の項で「古書店山王書房)で『独楽吟』が載っている『和文名歌集上下』(日本名著全集)を見つけたときはうれしかった。500円ぐらいしただろうか。今でも、私の書庫に大事に置いてある。この古書店は、本当にすばらしい本屋で、高校生のような青二才がときたま寄っても大事にしてくれる。いつも店内は水を打ってきれいにしていた。近くにもう一軒あったが、これはどこに何があるか、本の分類も適当だった。あるとき前田河廣一郎の徳富蘆花の評伝(セロファンできれいに表紙を保護してある)をこれも500円で買った。そしてあらかた読んだのでその本を同じ古書店に持っていったら、500円で買い戻してくれたのだ。つまり自分の家まで持って帰って、ただで読ませてくれたことになる。こういう親父がいるから本を好きになれるのだ。」と書いた。
 何とかして手に入れられないかなと思ったのだ。12月23日には、先日書いたようにB型肝炎訴訟の問題で東京に行った。徳島からの飛行機は、羽田上空で着陸許可待ちが続き、伊豆半島付近を2度も旋回した。お陰で、雪を頂いた富士山を3度も見ることができ、何かしら幸せな思いをした。首相官邸前での宣伝行動まで時間があったので、神田に立ち寄った。岩波ブックセンター東京堂書店をのぞいてみた。東京堂書店のひら棚に、その本は20冊ほど置かれていた。少し薄い緑の布で装丁された本の表紙には「昔日の客」関口良雄と書かれていた。本の帯には「古本と文学を愛するすべての人へ」と書かれていた。
 ホテルで飛行機の待ち時間でこの本を読んだ。もう50年近く前に接した関口良雄の人柄がにじみ出ている文章だった。本と人を愛する心が文章の端々からあふれてきているようで、心和む本であった。私が、孺子の牛に書いた通りの人物であった。「虫の居どころ」「古本」「偽筆の話」「某月某日」の鶏の話、「昔日の客」の作家野呂邦暢の話など、とにかく楽しく読ませてもらった。野呂邦暢山王書房について書いた随筆「小さな町にて」も読んでみたい。

昔日の客

昔日の客