B型肝炎訴訟、政府が札幌地裁の見解受入れ

 1月26日、国は正式に札幌地裁で出された「見解」受入れることを表明した。全国各地の原告団が、政府の態度について歓迎をしつつも、懸念も表明している。私も、徳島新聞から取材を受けた。国の、「基本姿勢」以下のとおりであった。

●去る1月11日に札幌地裁より示されたB型肝炎訴訟の和解に向けての裁判所の見解については、政府として厳しいところがありますけれども、司法の判断を重く受け止め、基本的には前向きに対応を検討してまいります。
●本件の原因でございます集団予防接種は、一方で感染症から国民の生命身体を守り、国民全体に広く利益をもたらしたものでありますが、他方で少なからず被害を被った方々がいらっしゃることも、また事実でございます。このように、この問題はかつて例のない大変大きな広がりを持つものでありまして、政府が真正面からしっかりと向き合って長期に渡って責任のある対応をとることが必要であります。たぶんですね、被害対象者、つまり「大きな広がりを持つ」というところは、私(官房長官)の推計では45万人から50万人。それから「長期に渡って」というのは、解決に、あるいは解決策を実行することに必要な期間、約30年ということであります。
●こうした認識のもと、現在提訴されている方々のみならず、未提訴の方々への対応も視野に入れて、財源確保の在り方も含めた全体の枠組を固めておくことが不可欠と考えます。本件の原因が集団予防接種であることを踏まえて、こうした枠組を国民全体で支え、分かち合っていただくことにつきまして、国民の皆様方のご理解をお願いをいたしたいと考えております。
●今後政府としては、与野党に対し、党派を越えて政府の検討状況をご報告し、ご理解を得ながら進めていきたいと考えております。政府・与党として、野党のご協力を是非ともお願いしたいと考えております。
 政府といたしましては、与野党のご協力をいただきながら、国民のご理解を得られるような全体解決に向けて引き続き最大限の努力をしてまいりたいと考えております。

 また、「B型肝炎訴訟への対応スキーム(骨子案)」も示している。(注:スキーム 枠組みをもった計画のこと なぜ日本語で表現しないのだろうか)「基本姿勢」を読んでみると、原告団が1月22日の総会で示した、事柄についての具体的な言及がない。これからの原告団との話し合いに待つと言うことなのだろうが、多くの被害者を生んだ集団予防接種の原因・問題点・今後の対応、被害者への謝罪、恒久対策、全員救済への道など、示すべきだったのではないだろうか。一番の問題点は、「基本姿勢」でも「対応スキーム」でも、財源確保優先の姿勢がみられる。原告が求めている「まず謝罪」がない。また、「給付金等の支給」を見ると、「給付金等の請求には、一定の請求期間を設ける」としているが、これなどは被害者切り捨てにつながるのではないだろうか。原告団が求めている「全員救済」の実現を阻むもので受け入れられない。
 引き続き与野党議員への働きかけ、国民世論の獲得が必要で、政府が裁判所の見解を受け入れたことは、解決への第一歩ではあるが、気を緩めてはならない。日本肝臓病患者団体協議会(略称:日肝協)の役員のNさんは、こう意見を述べているが、その通りではないだろうか。

 和解前にあたり解決されるべき課題がなお多く残されています。
 また、加害責任を明確にした謝罪や国民に対する説明がなされないまま、過大で根拠のない賠償費用や増税論議が流布され、原告・被害者の心を傷つけています。
1.母子手帳、予防接種台帳、予防接種痕がない被害者が切り捨てられる余地がなお残されている。
2.20年以上苦しんでいる慢性肝炎発症患者が切り捨てられる危険がある。
3.国による加害責任を明確にした謝罪、国民に対する説明がなされていない。
4.正確な医学知識の普及による差別・偏見をなくす施策、真相究明と再発防止策の策定、検査・治療・研究開発の体制の充実など恒久対策が不十分であること。
 また、これらを検討するための原告らを含めた協議機関が存在しない。

 大阪弁護団長の長野弁護士も、今後の課題を挙げている。
昨日政府の和解所見受け入れの正式表明がありました。しかし、和解実現=基本合意成立のために原告団が前提条件としている重要な課題
①全員救済、とりわけ慢性肝炎発症してから20年以上たった者を除斥を理由して救済から排除しないこと
②政府の加害責任に基づく真摯な謝罪、
③恒久対策についての真摯な対応と協議機関の設置
 については、政府はまだ何の回答もしてきていません(厳しい対応です)。このままでは、2月15日の基本合意成立は困難です。


写真は宮内フサ(1985年102歳で死去)作品 左から、具足馬・俵馬・蛇の目馬

俚謡 (湯朝竹山人 辰文館 大正2年刊 1913年)から
  ●忍ぶ道には 粟黍植えな あはず戻れば きび悪い
  ●物を言やるな 言や屑になる いはで包めば 屑も無い
  ●秋の夜よ 長いといふは そりゃ常のこと 主と寝た夜の 短さよ