B型肝炎訴訟 原告団第二次和解所見を受け入れ

 5月2日に東京の弁護士会館で、B型肝炎訴訟拡大代表者会議が開かれたので参加した。
 今回の会議は、札幌地裁が出した第二次所見に対し、原告の態度を決めるもので、各地の原告団が協議を重ねた意見を持ち寄ったものであるが、参加代表者全員一致で和解を受け入れることを決定した。しかし、政府があくまでも民法724条をたてにとって、被害者の一律救済を拒んだことに対しては、大きな批判が出された。発症後20年以上を経過し長い期間苦しめられた被害者の救済金額が余りにも低額なことは、社会正義に反するものだと思う。
 近く、裁判所を介して原告と国との和解成立のための基本合意をどうするか協議されるが、後に記載した声明でも指摘しているが、国の真摯な謝罪と、今後の恒久対策がどうなっていくか、原告団は最後まで戦っていくことを表明した。
 とにかく、菅政権は厚生労働省財務省の官僚のいい言いなりになって、被害者全員の差のない救済という私たちの願いを政治決断できなかったということは、民主党菅政権の今後の危うさを示している。
 下に「声明」全文を示す。
             
                     2011年5月2日
札幌地裁の2次所見をうけての全国原告団声明 
                     全国B型肝炎訴訟原告団
1 はじめに
本日、私たちは、本年4月19日に札幌地方裁判所が出したB型肝炎訴訟の2次所見を受諾するかどうかについて検討しました。
  討議の結果、私たちは、大変つらい決断でしたが、この2次所見を含む和解所見全体(「基本合意書」案)を受諾することを決定し、前に進むことにしました。

2 発症後20年経過した被害者について
2次所見の最大の焦点は、慢性肝炎発症後提訴まで20年を経過した被害者の取り扱いについてでした。所見の内容は、残念ながら、発症後20年を経過した被害者への和解金と発症後20年未満で提訴した被害者への和解金との間に大きな差が付けられたものでした。
「除斥」という法律があるからといって、より長く苦しんでいる被害者がより低い和解金しか受け取れないことは不条理であり不正義です。そうであるからこそ、この間、私たちは「差のない救済」を求めて、立法を含む政治による解決を求めて運動してきました。衆議院及び参議院の国会議員への要請に対しては、実質3週間足らずの短期間の内に、与野党160名を越える議員の方々より賛同署名をいただきました。
ところが、本年3月11日、東日本大震災が起き、立法を含む政治による解決の先行きも極めて不透明となってしまいました。
他方、私たち原告団の中には、末期の肝硬変患者や余命宣告を受けている肝がん患者などの重症者も多数おり、提訴後既に13名が解決をみることなく死亡しています。このままたたかいを続けることは、その中でさらに仲間を失うことにもなりかねません。私たちは、本年1月22日、第1次所見を「早期解決のための苦渋の選択」の結果として受入れました。今回、2次所見についてはさらに苦しい選択ではありますが、私たちは、たたかいによる一定の成果も評価したうえ、早期解決のために、和解所見全体を受諾することにしました。
しかし、和解所見を受諾するとしても、私たちが発症後20年経過した被害者に対する国の対応が正しいと認めるものでないことは言うまでもありません。国が強くこだわり、裁判所の所見も極めて不十分なものにとどまったのは、あくまでもそれぞれが現行法の解釈にこだわったからに他なりません。しかし、この「除斥」という法律は、既に法制審議会等でもその廃止・変更が具体的に検討されているものです。過去の多くの裁判のなかでもその弊害が強く指摘されてきました。私たちは、発症後20年経過した被害者に「差のない救済」を求めるこの間の私たちの運動に賛同・共感していただいた国会議員の方々をはじめ、すべての国民・市民のみなさんの声を力にして、将来の立法などの機会において、引き続き「差のない救済」を求めたいと考えています。

3 基本合意の成立に向けて
 すでに、国は裁判所の「基本合意書(案)」の受諾を表明しています。
私たちの受諾により、裁判所において協議されてきた問題については、解決の方向が基本的に定まることになりました。
私たちは、国が、前提として確認されるべき次の点について、真摯に対応し、早期に基本合意が締結されることを求めるものです。
⑴ 集団予防接種における注射器等の使い回しによってB型肝炎ウイルス感染被害を発生・拡大させ、その甚大な被害を長い年月放置・隠蔽してきた国の責任の確認と、すべての感染被害者及び感染の危険にさらされたすべての国民、住民に対する国の謝罪
⑵ 次の施策の推進・実現の約束とそのための原告団弁護団と国との協議機関の設置
① 偏見・差別のない社会実現のための啓発・広報活動等
② 真相究明と再発防止
③ 和解により救済されない感染被害者を含めたすべてのウイルス性肝炎患者に対する恒久対策

4 最後に
私たちは、集団予防接種の注射器等の使い回しによるB型肝炎ウイルス感染被害者の救済そしてすべてのウイルス性肝炎患者の救済実現のために本訴訟をたたかってきました。これまでのたたかいによって、感染被害を発生させた国の責任を認めさせ、不十分ではありますが、一定の被害者救済制度実現の見通しがついたものと思います。
私たちは、この成果をもとにして、未提訴の被害者の被害回復と、すべてのウイルス性肝炎患者が安心して治療を受け、生活が出来る社会を実現するため、今後とも活動を続けてまいります。
                                 以上


下の写真は、宮内フサ(1985年102歳で死去)作品 宝船 

俚謡 (湯朝竹山人 辰文館 大正2年刊 1913年)から
 〇さても寝られぬ あかつき憂しや 過ぎし今宵の 而も今
 〇逢はぬ辛さを 焦がれしよりは 逢ふて別るる 憂き涙
 〇衛士の焚く火は 夜こそ燃えれ 胸にたく火の 絶えやらぬ