ロバート・ファン・ヒューリック「沙蘭の迷路」

沙蘭の迷路 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1823)

沙蘭の迷路 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1823)

 先日、山口県宇部市B型肝炎訴訟のことを話しに行ったが、往復の汽車の中で読んだのが「沙蘭の迷路」。早川ミステリの中には全部で16冊のシリーズが翻訳されているが、出版順では13番目ではあるが、判事シリーズとしては第一作目になる。英語版より先に日本語訳が魚返善雄の訳で1951年に「迷路の殺人」と題して出版されたのが本書のデビューであった。もう、60年も経ているのだが楽しく読めた一冊であった。
 原題は「THE CHINESE MAZE MURDERS」。本書には、松本清張の「序文」、江戸川乱歩の「解説」、訳者あとがきと特別付録として「沙上の一献  酒とギョウザのこぼれ話」が収録されていて、興味深い。ギョウザは世界各地に広がって、いろいろな形と味で食べられているようだ。松本清張の序文では、「不思議な縁で、グーリック(当時の表記)の奥さん(中国人)の妹さんがわたしの三男の中国語の先生で、その関係からわたしはオランダに行ったとき、未亡人のお宅を訪問した。ハーグの北、保養地で知られたスキールニンベンの静かな住宅街であった。もちろん純オランダ風の家であった。そこの応接室で、二時間あまり英語で話したが、中国婦人である未亡人はなき夫の話題にほほえみながらもハンカチを鼻に当てていた。」
 忙しい外交官としての仕事のほかに、日本のミステリー作家たちとの交流を深めていた著者であった。
 ロバート・ファン・ヒューリックの作品には、中国各地の文物・歴史がちりばめられており、とにかく訳者というものは著者の持っているたくさんの引き出しの中身を理解しなければならないので大変だ。
 アマゾンの紹介文は下記の通り。
 新たな任地・蘭坊へ赴任するディー判事。到着寸前に追いはぎの襲撃を受けたのは、多難な前途を予告していたのか。はたせるかな、蘭坊の政庁は腐敗し、地元豪族が町を支配していた。さっそく治安回復に乗りだす判事だが、事件はそれだけではない。引退した老将軍が密室で変死、とりたてた巡査長の娘は失踪するなど、次々に難事件が襲いくる。なかでも元長官が遺した一幅の画と、別荘に作られた迷路に秘められた謎は、判事の頭脳を大いに悩ませる! 記念すべきディー判事シリーズ第1作を、松本清張江戸川乱歩の名文とともに、最新訳で贈る決定版 。



上の写真は、宮内フサ(1985年102歳で死去)作品  張子面


俚謡 (湯朝竹山人 辰文館 大正2年刊 1913年)から
  ○真の夜更けに わしや寝もやらず 夜着に凭れて 忍び泣き
  ○久し振りでの 今宵の御見 私や何から いはうやら
  ○ちらりちらりと 降る雪さへも 積もり積もりて 深くなる