守大助さん、仙台地裁へ再審請求と「科学の扉をノックする」小川洋子

 仙台・北陵クリニック筋弛緩剤えん罪事件で、千葉刑務所に服役させられている守大助さんは、今日仙台地裁に再審請求を行うことになった。
 私たちの運動も、これから新たな段階を迎えることになる。守さんのえん罪を訴えるチラシを新たに作ることになって、各地のチラシを参考に、急遽私が担当で作ることになった。11日に他団体の集会に配布させてもらうためだ。昨日は、その作成と印刷に追われた。11日の午後には短時間だが、徳島駅前でチラシも配布する。

 再審請求では、守さんが冤罪であるという新証拠として、以下の3点挙げている。

その1・筋弛緩剤の成分が出たとする大阪府警鑑定は誤り、証拠価値はない
    東京薬科大学・志田保夫元教授の実験鑑定意見書
確定判決は、起訴された5件の患者さんの血液や尿、点滴ボトルから筋弛緩剤が出たとする大阪府警科学捜査研究所の「土橋鑑定」を科学的に検証することなく、それを唯一の証拠に患者さんの急変を筋弛緩剤の薬理効果と無理やり認定しました。守大助さんを有罪にしたのも「土橋鑑定」ですが、志田教授の実験によりこれは全くの誤りで、鑑定の名に値しないものであることが明白になりました。

その2・患者さんの急変は筋弛緩剤ではなく他の病変が原因
    長崎大学神経内科学・池田正行教授の意見書
確定判決は、当時11歳のA子さんの急変を筋弛緩剤投与が原因と認定し、これを根拠に他の4人の患者さんの急変原因も無理やり筋弛緩剤投与が原因と認定しました。池田教授は長年の研究と診断の経験から、A子さんには筋弛緩の症状は全く出ていないことを意見書で証明しました。また、確定判決の認定には、主治医である当時の院長が「心筋梗塞」で死亡と診断したものや、急変したといいながら自ら車を運転して帰宅した抗生剤の副作用に過ぎない患者さんなど、当時は全く問題がなかった患者なども含まれていました。

その3・守大助さんの自白は警察の密室の中で、取調官の強制・誘導で作られたウソの自白
    奈良女子大学・心理学・浜田寿美男名誉教授の意見書
 確定判決は、守大助さんが任意同行の段階で自白し、A子さんへの犯行を認める「反省文」を書いたことをもって自白の任意性・信用性を認めました。浜田教授は長年の刑事司法と心理学の研究から、自白が取調べの可視化のない警察の密室の中でなされたもので、自白は取調官の強制・誘導で作られたものであるとして、自白の任意性・信用性を認定した確定判決を批判しています。


 地裁での再審開始決定を実現させるために、全国26か所にある支援する会が協力して、いろんな運動を展開する必要がある。各地の支援する会では、何回か協議を重ねてきて、「仙台筋弛緩剤えん罪事件全国連絡会」(仮称)を3月20日に結成することになった。結成総会成功のため、徳島からも代表を派遣する予定だ。
 会の目的は、案では「冤罪被害者・守大助さんの一日も早い再審・無罪を勝ちとるために、全国の会が団結して、広く世論を喚起し、共通かつ有効な運動を展開するための活動を行う。」としている。

 2月18日には、守さんのご両親を迎えて、第7回守大助さんを支援する徳島の会総会が開かれるが、総会に向けて、守大助さんからメッセージが寄せられている。
 その一部は、以下のとおり。

 「上告が棄却され、今月25日で4年になります。無実の受刑囚として生活していますが、胸中は複雑な気持ちでいっぱいです。どうして郁子医師の指示に基づいて、点滴・処置をしただけなのに“筋弛緩剤を混入した”犯人にさせられてしまうのか。私はやっていません。再審請求が近づいています。徳島から仙台地裁へ声を出して下さい。私を両親の元に帰らせて下さい。助けて下さい。」
 

科学の扉をノックする (集英社文庫)

科学の扉をノックする (集英社文庫)

 著者の小川洋子は1962年岡山県生まれ。1991年に「妊娠カレンダー」で第104回芥川賞を受賞している。「博士の愛した数式」は読売文学賞を受賞し、映画化もされた。各国でも翻訳されている。中国語訳を持っているが、まだ読んでいない。著者は文系なのに自然科学に若い時から興味を持っている。
 「あとがき」には、「子供のころから、新聞で一番好きなのは科学の記事でした。」と書いているし、この文庫本のあとがきには、「この三年、相変わらず私は科学記事を読むのを、一日の何よりの楽しみとしてきました。つい先日見つけた記事には、立教大学理学研究科院生、鈴木俊貴さんの研究で、シジュウカラの親鳥は鳴き声を使い分けて雛に危険を知らせるというものです。」とあったが、自然科学には全くおんちの私には近寄りがたい。それでもこの作者の文章は、いつ読んでも対象に対する温かさを感じるのである。
 本書は、7名への取材であるが、著者の科学好き、人好きがよく表現されている。たとえば、「文系型の人間はとかく、論理的な思考能力の高い理系の人は情緒に対して冷徹だ、と決め付けてしまいがちだが、全くの偏見に過ぎない。単に客観的な事実に捕らわれているだけならば、決まり切った結論しか出てこない。誰にも気づかれず世界のどこかに隠されたままになっている、新しい真理を発見しようと思ったら、理屈や常識を飛び越える感受性が必要になってくる。だからこそ、優れた科学者であればあるほど、豊かな情緒を備えている。」
 著者は、また熱心な阪神タイガーズファンであるようだ。球場へも足を運んで、阪神の試合を観戦している。それでかどうかは知らないが、本書の最後の取材対象として、阪神の続木敏之トレーニングコーチを取り上げている。甲子園球児として活躍した続木コーチが、新居浜商業時代の甲子園でのプレーを見ている。「1975年の夏、中学生だった私はテレビで新居浜商業の試合を観て、いっぺんでそのチームが好きになり(新居浜が祖父母の故郷だったことも理由の一つだった)、夢中で応援した。」

 それにつけても、科学と全く反した鑑定を行った大阪府警科学捜査研究所の「土橋鑑定」は、無実の人を罪に陥れるもので、許し難い。また、土橋鑑定では、血液を全量消費・廃棄して再鑑定をできなくしており、真実の探求からは遠く離れ、科学者の名に値しない。


 上の写真は、我が家の張子面 猿 倉敷張子


俚謡 (湯朝竹山人 辰文館 大正2年刊 1913年)から
 〇木曾ぢゃ御嶽(おんたけ) 甲州ぢゃ御嶽(みたけ) 西ぢゃ乗鞍 槍ケ嶽
 〇夢で三廻り 来るかと待乳(まつち) 会へば心も 隅田川
 〇見まショ見せまショ 浦戸を開けて 月の名所は 桂浜