これは、傑作!快作! 定本 「黒部の山賊」 アルプスの怪 伊藤正一

定本 黒部の山賊 アルプスの怪

定本 黒部の山賊 アルプスの怪

 とにかく、愉快な傑作である。
 本書は、1964年に実業之日本社から刊行されて、その後1994年に新版「黒部の山賊」として刊行された。これを元に今年3月に出版されたもの。
 著者は1923年長野県松本市生まれ。90歳を越える。畦地梅太郎のカバーの絵も素晴らしい。戦後から1960年代初めの黒部が舞台になっている。
 本の帯には、「山賊がいた!河童もいた!? 北アルプス登山黎明期、驚天動地の昔話。山小屋だけで買えた、山岳名著の復活!カワウソ?埋蔵金、セメントを練る音は?山ぼけ、オーイオーイの声、女性の声が、いちばん不思議だった話、火の玉、易者、狸が化かす、人を呼ぶ白骨、サァサァあとは読んでのお楽しみ」と書いて、購買欲をそそっている。
 本の帯は出版社・取次店にとっては大変大事なものであるようだ。なぜかと言うと、先日東京でB型肝炎関係の会議があり、少し時間があったので八重洲ブックセンターに立ち寄ってめぼしい本を探していた。そのとき、一所懸命に本の帯を換えている営業マン風の男性がいた。今、NHKの朝の連続ドラマで話題になっている「白蓮」に関する本のカバーであった。なぜ換えているのかと聞くと、ドラマに合った表現のカバーにすると売り上げも伸びるのではないかと言うことであった。本を売るのも大変なことである。

 これはもう読まずにはいられない。60歳から登山を始めた初心者の私にとって、不思議な楽しい話が満載、とは言っても危険な怖い話も満載である。戦後すぐから黒部の山と関わってきた山男(山賊)たちの無骨な人柄がこちらに伝わってくる。スマートな現在の登山と違い、全人生・全生活に関わっている登山の厳しさも伝わってきた。
 私なんぞは登る前から最近ではぼけているが、山に長くいるとぼけてくるようだ。こう書いている。「まず気温が違うので、着るものについて錯覚を起こす。女性がみな美人に見える。乗り物が怖い。夜でも屋外が明るくて、大勢の人が歩いていることが奇異に感じられる。外出するのに金銭を持たずに出てしまう。それからアスファルトの道が、なめらか過ぎて、どちらの方向へでも滑って行きそうで危ないような気がする。」
 こうなればもう全くの山男である。女性について言えば、このごろの山ガールには美人が多いようで里に下りなくても見られる。
 著者は黒部の山で出会った山賊について、こう記述している。「思えば私も、いつのまにか黒部に深入りをしてしまったものだ。初めて三俣小屋で富士弥に会って以来、もう二十年の年月が去っていった。その間、休みなく流れる黒部川の水のように、そこを訪れた人々の歴史もまた流れた。幾多の知名人や、立派な人格者もきたなかで、私は山賊たちが好きだった。欠点だらけの彼らに、これほど心を惹かれるのはなぜだろうか。それは荒々しく美しい山を愛し、黒部源流開拓の困難な時代をともに生きてきた彼らの、あからさまな人間性の故ではないだろうか。
 今年になって読んだ本では一番の楽しさであった。皆さん、是非ご一読ください。



我が家の郷土玩具  岡山・邑久人形 猿  2003年11月17日購入



どどいつ入門(中道風迅洞 1986年 徳間書店)入門
○仇な笑顔に迷はぬ者は 木仏金仏石ぼとけ
○花やよくきけ性(しょう)あるならば ひとがふさぐになぜ開く
○いやなお方の親切よりも 好いたお方の無理がよい